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Design Research

Transformation ─ 高齢化にまつわる基礎調査報告書


“超高齢社会ニッポンが世界のロールモデルに?”

医療やテクノロジーの進歩による長寿化や出生率の低下は、高齢(65歳以上)人口の増加に大きな影響を与え、いまや「高齢化社会」は先進国共通の大きな課題となっています。

日本は2030年に3人に1人が高齢者になると推計*され、先進国のなかでいち早く超高齢社会を迎えます。高齢化にともない起こるさまざまな課題解決のロールモデルとして、各国から注目されています。

*国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』 http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/hh2401.asp


“世界のプロフェッショナルや企業・大学を巻き込んだリサーチプロジェクト”

今回ロフトワークは、Studio Dのヤン・チップチェイス(Jan Chipchase)*とのコラボレーションで、経済産業省の委託業務「平成28年度産業技術調査事業(社会課題及び技術シーズを起点としたビジネスモデルの構築に係る調査)に基づき「高齢化・高齢社会」をテーマにした東京・吉野・成都(中国)3都市でのデザインリサーチを実施。その内容を「Transformation - 高齢化にまつわる基礎調査報告書」にまとめました。

このプロジェクトは、世界が直面する高齢化という課題の本質、そして「老い」そのものに対する人々の考え方や向き合い方のリアリティを、デザインリサーチという手法を通じて明らかにするものです。

リサーチは基礎調査として行われ、特定の課題解決に直結するものではなく、高齢社会における課題解決のための新たな視点や議論のきっかけとなることを目的に実施しました。リサーチでの発見を新しい産業やビジネスに活用する最初のステップにするために、リサーチチームにはパナソニック株式会社とNEC(日本電気株式会社)株式会社のエンジニアや研究者、慶應義塾大学のメンバーも参加しました。

*デザインコンサルティングファームfrogのグローバル市場調査分析部門でエグゼクティブクリエイティブディレクターを務め、現在はStudio Dを立ち上げ世界各国でデザインリサーチに取り組んでいる。

“従来のマーケティングリサーチとはなにが違うのか?”

今回の調査で用いた手法「デザインリサーチ」の特徴は、調査を行う主体が実際に事業や製品を設計・デザインしていく本人であることです。従来のマーケティングリサーチではマーケターやリサーチャーが調査主体となりますが、実際にデザインに携わる人が調査段階から関わることで、人々の生活のニュアンスまでも汲み取った理解につながります。

またデザインリサーチは、定量調査や形式的な定性調査では明らかにすることが難しい、生活者の行動や思考の裏側にあるコンテクストも含めた“Why”に着目します。本人さえ気付くことのなかった視点や心的態度を明らかにし、より本質的な課題発見につながる調査手法といえます。

プロジェクト概要

・クライアント:経済産業省 産業技術環境局
・プロジェクト期間:2016年9月〜12月
・場所:東京、吉野、成都(中国)
・リサーチテーマ:高齢化とそれに関わる社会、人の行動様式・思考のあり方について
・リサーチ内容・対象:専門家へのインタビュー、90〜180分程度のIn-depthインタビュー、グループインタビュー、Ad-hoc(リサーチテーマを取り巻く様々な環境で即興的な)インタビューなど、さまざま形式で総勢170名へインタビューを実施

このプロジェクトはこれからの日本が課題「解決」の先進国として、世界のロールモデルとなっていくための試みとして取り組んでいます。またプロジェクトを超えて、このリサーチ内容が多くの人たちの「老い」に対する知見を深める役に立ってほしいという思いから、報告書はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-NC-SA 4.0)を付与して公開。併せて、デザインリサーチについての知見をまとめた「実践ガイド」とリサーチ過程で蓄積した写真(161枚)も公開しています。

ダウンロード

(2017/2/13更新・一部のテキストを修正しました)

上記の文書・写真は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-NC-SA 4.0*)を付与し一般公開します。 このライセンスは、非営利な目的のもと、適切なクレジットの表示、ライセンスへのリンク貼付、変更がある際はその旨を表示し再配布の際は同じライセンスを付与すれば、利用・再配布することが可能です。営利目的の利用の際は、ロフトワーク広報(pr@loftwork.com)にお問い合わせください。
*Transformation images, figures, and content are published under a Creative Commons, Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License. https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/
*当ドキュメントは、経済産業省の委託業務「平成28年度産業技術調査事業(社会課題及び技術シーズを起点としたビジネスモデルの構築に係る調査)」の報告書とは異なるものです。

「Transformation - 高齢化にまつわる基礎調査報告書」

報告書の主な内容

Concepts(視点)
既存のライフステージ分類をさらに細分化

Thomas ArmstrongのTwelve Stages of Human Development理論に基づきつくられた12のライフステージを、今回高齢化をより詳細に捉えるために、事前のリサーチから仮説をたて、50歳以上に焦点をあて4つの新しいライフステージ(赤部分)を再定義。リサーチ全体を一貫して捉える概念図として作成しました。

Findings(発見)
リサーチで得た発見を概念化

リサーチでの発見内容を8つのフレームワークと共に掲載。

総勢170名へのインタビュー内容をもとに、引退・退職への移行過程を属性ごとに可視化したモデルや、親子三世代における与える・受け取るという立場の変化を表した互恵関係のモデルなど、年齢を重ねる意味について、“暗黙の了解”と捉えがちなこともインタビューから再考して可視化を試みました。

Archetypes(顧客像)
フィールドリサーチを経て
象徴的な5つのアーキタイプを作成

新たな事業・製品・サービスをデザインする際の顧客像として定義したものです。リサーチ対象者170名の特徴・ふるまい・思考などから共通項を抽出し、高齢者の人物像5人を描きました。

今回のリサーチでは、マーケティング用語としてよく使用されるペルソナ(リサーチの対象者全員を代表する1人を選出した、実在する人物像)とは区別し、リサーチ対象者全員を包括した、実在しないけれどもっともらしい人物像として位置付けています。

Opportunity Areas(機会領域)
9つの領域を定義
次フェーズ以降のリサーチや事業化の青写真を策定

フィールドリサーチから得たインサイトや定義した5つのアーキタイプをもとに、新しい事業・製品・サービスを生み出すために参考になる機会領域を9つ定義しました。

すでに顕在化している身体・精神的な衰え、健康・経済的な課題も広く扱い、次フェーズ以降でさらに深く追究するテーマとしてまとめています。

*当ドキュメントは、経済産業省の委託業務「平成28年度産業技術調査事業(社会課題及び技術シーズを起点としたビジネスモデルの構築に係る調査)」の報告書とは異なるものです。
*2017/2/13更新・一部のテキストを修正しました

今回のデザインリサーチプロセス

今回実践したデザインリサーチのプロセスやそれに付随したナレッジを、「Design Research 101 - 高齢社会のデザインリサーチプロジェクトに基づく実践ガイド」としてまとめました。デザインリサーチプロジェクトの実施をサポートするため、また実施する際に必要となる情報やその視点をカバーすることを目指して作成しています。

1 ─ IMMERSION
リサーチテーマに浸かる

プロジェクトおよびテーマについての理解を深めるための準備期間。トレンド調査、バックグラウンド調査、初期仮説の設定などを行います。

2 ─ RESEARCH PREPARATION
リサーチの準備をする

初期仮説の設定で定められたリサーチエリアについて、当該国・地域の状況把握からロジスティクス(渡航、滞在等)、インタビュー対象者、現地リサーチの協力メンバーとなるローカルガイドのリクルーティングを行います。対象者やローカルガイドのリクルーティングがその後のリサーチの質を決定すると言っても過言ではありません。

3 ─ IN-FIELD RESEARCH
現地で調査する

各地域で現地調査を行います。対象となる生活者に対し、自宅や関わりの深い場所において90分〜180分程度のインタビュー(In-depth Interview)、テーマに関連する場所において10分〜60分程度のインタビュー(Ad-hoc Interview)、数分〜半日の観察(Observation)などを行います。

インタビューでは対象者の普段の生活や日々触れているものなどを観察し、本人が考えていることはもちろん、無意識なことも言語化されるよう回答を導きます。毎日のリサーチ共有(Debrief)の他に、数日ごとの統合(Synthsis)のセッションをはさみ、リサーチの精度が上がるよう日々更新します。

4 ─ SYNTHESIS
リサーチで得たものを統合する

観察事項や発言録など生データを意味のあるインサイトとして落とし込むために、KJ法などの手法を用いて表出している要素から意味合いを深掘ります。

テーマを捉える上で重要な考え方(Concept)を定義したり、発見内容(Findings)の概念図(Framework)を作成しながら内容を洗練させます。 また、人物像(Archetype)や、これまで見落とされていたり十分に満たされていない人々のニーズについても議論を深めます。新たな製品やサービスを発想する際の重要なインプットにするために、その結果を機会領域(Opportunity Areas)としてまとめました。

5 ─ WRITE-UP
DECKを作成する

リサーチで得た内容をDeck(プレゼンテーション型ドキュメント)としてまとめます。Synthesisを通して明らかになった、ConceptやFinding、Archetype、Opportunity Areaについて精査を繰り返し、さらに内容を洗練させていきます。

読者の理解を助けるリサーチ写真の選定や、イラストレーション、レイアウト、校正なども並行して行います。Macro overview(リサーチテーマの概観)やMethodology(方法論)についても整理した上で、リサーチ全体を振り返ります。

*2017/2/13更新・一部のテキストを修正しました

リサーチメンバー一覧

デザインリサーチのプロフェッショナルとしてヤン・チップチェイスがリサーチをリード。 プロジェクトメンバーはテーマに関する専門家に偏ることなく、企業や大学など多彩なバックグラウンドを持ったメンバーを巻き込みました。こうすることで、リサーチ内容に一定のバイアスがかからないリサーチが可能になります。メンバーはそれぞれが柔軟に複数の役割を担い、対等な関係のもとでプロジェクトを進めました。

・Studio D|Jan Chipchase, Venetia Tay
・ロフトワーク|林 千晶、神野 真実、桑原 季、国広 信哉、カワナアキ
・大学パートナー|慶應義塾大学SDM:神武 直彦、小高 暁、相崎 香帆里、隅屋 輝佳/慶應義塾大学SFC:佐々木 剛二
・企業パートナー|NEC(日本電気株式会社)河又 恒久、平尾 英司、矢野 有美/パナソニック株式会社:福井 崇之

制作チーム

このサービスに関するお問い合わせ

ロフトワーク 神野真実

クリエイティブ・ディレクター
神野 真実

今回のプロジェクトの醍醐味は、「インタビュー対象者の人生を、彼らの視点から眺めること」「リサーチから得たデータを統合し、新たな発見を生むこと」の中にありました。 高齢化という、大きな課題をテーマにしながらも、まずは、対象者一人ひとりと信頼関係を築き、彼らの会話やふるまい、周辺環境の観察を丁寧に行う必要があります。そうして得た膨大なデータを丹念に統合することが、大きな発見につながるのです。 より価値のあるデータを得るために、フィールドに入る前から地元ガイドとの信頼関係を築いたり、リサーチ拠点となるスタジオの立地/空間にこだわったり、ポストイットの貼り方、鍵の置き場所までもルール化したりすることで、リサーチの中で最大限注力したいところに時間が割けるよう工夫しました。また、「よりよいリサーチとは何か?」を常に問い続け、リサーチのアプローチを柔軟に変えることで、プロジェクトの醍醐味を存分に味わうことができるのだと感じました。 今回のリサーチは基礎調査として行ったものなので、これをきっかけに今後のプロジェクトにつなげていきたいです。

桑原 季

クリエイティブディレクター
桑原 季

本プロジェクトは日本と中国で計170名程の人にインタビューするという、僕自身今までまったくしてこなかったアプローチで行われました。明日の予定も容易に変わるようなダイナミズムをもつ今回のデザインリサーチのプロセスは、毎日胃が痛くなる思いの連続でした。しかし寝食を共にし、1日の多くの時間を共にするなかで育まれたチームメンバー間の信頼関係が、それらを乗り越える大きな原動力となったと思います。 対象者そのものを映し出すのでなく、対象者の横に立ち彼らが見ているものまでを映しだすデザインリサーチは、手法だけでなくチームが強固に結びつく手法も同時に問われるアプローチだということを実感する機会となりました。

Shinya Kunihiro

クリエイティブディレクター
国広 信哉

デザインリサーチの醍醐味は日々何が起こるか読めないところにあります。そのダイナミズムを楽しむためにも、チームの濃い関係性作りが重要でした。全員が同じ役割を体験してみる。インタビューで起きた出来事を毎日共有する。対象者もガイドの人もみんなで寝食を共にする。メンバーの意見は尊重し議論のチャンスを必ずつくる。そんな繋がりを強める小さな取り組みの積み重ねが、チームで生み出した最高のアウトプット、という実感をもたらしていると思います。