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諏訪光洋

代表取締役社長
諏訪 光洋

2010年 Web業界5つのキーワード

日本の社会や企業にとって暗闇の中を歩くようだった2009年。実はWEB業界にとって、またWEBを積極的に使う多くの人々にとっても「変化の年」だっのではないだろうか?

ローカルアプリケーションはますます不要になり(最後に箱に入ったパッケージソフトを買ったのはいつだ?)、音楽やメールといった個人的なデータや友達との関係性、全てがオンラインに移行していった。iPhoneはいつでもオンラインになる事を当たり前にしてくれたし、Twitterによって皆ともっと緩やかに繋がりを深め、アプリケーションはSaaSという形で買うようになった。個人的な事だけど、今迄より走る距離も少し長くなったし、そのデータもオンラインで見る事ができるようになった。夜中に気が向いた方向に走っていっても自分がいる場所はすぐわかるし、ふとしたときに写真を撮り、オンラインにアップロードし、Tweetをし、そしてメールをいつもチェックしてしまう(笑)。2009年に全てが変わったわけではないけど、たぶん世の中の多くの人々と同じようにだんだん変化していってはっと気がついたら「オンラインにいた」のが2009年だと思う。

じゃあ2010年はどうなるんだろう?もちろん僕は金融の専門家でも無いし、政治を占う立場にもいない。だから今回はWEB業界に絞って2010年を考えてみた。

2010年、WEBを中心とした「サービス化」の波はもっと加速する

音楽CDがiTunesに、パッケージソフトがSaaSに、万歩計はNikeプラスに。世の中はモノからどんどんサービスにシフトしてきている。カーシェアリングの2009年利用者は2.5倍に増え、世界的にも急激に普及しつつある。これもモノとしての車の所有からサービスへのシフトだ。

クリエイティブの業界で使われる、ストックフォトのサービスもCD-ROMによる流通はとっくに絶滅してるし月額定額のサービスが増えてきている。レンタルサーバーはクラウドや仮想化によって「箱としてのサーバー」から「サービスとしてのサーバー」に移行しつつある。

タイヤ、クリーニング、モニター、カメラ、電球、楽器、フィットネス器具、カーナビ、食品、服、プリンター、ありとあらゆるモノがもっと「サービス化」するのが2010年。そしてサービス化を実現するのはWEBやメールによるインターフェースとシステムになるはずだ。

PCやモバイルによる予約がわかりやすく出来るようになったからこそカーシェアリングは普及しつつあるし、WEBやオンラインアプリによって万歩計はNIKEプラスに進化した。

世の中を大きく変える「サービス化」の波の中でWEB業界が果たす役割はとても大きいはずだ。SONYを始めとした多くの企業が「AV機器のサービス化」でAppleに大きく遅れをとったのはご存知の通り。その原因のひとつがオンラインと繋がるアプリケーションのUIや使い勝手が影響したのは誰もが認めるところだ。

今年普及が進むと思われるHTML5の登場によってWEBはますます「アプリケーション」としても力を発揮する。

我々のクライアントが「サービス化」に成功するかどうか。WEBに対する知識と知見、情報設計力、プロジェクトマネジメント、デザイン力とユーザビリティ、コンサルティング能力、WEB業界は求められるさまざまな能力を発揮しサービス化を成功に導くことが求められるだろう。

大規模で難しいプロジェクトの増加

ついこの間、7,8年前、WEBデザイナーはFLASHの制作からページのデザイン、コーディングまでを、ひとりでコツコツ行っていた。

今、中堅企業のウェブサイトは数百ページから数千ページにも及ぶし、とても2,3人でつくれる規模ではなくなってきている。プロモーションサイトのようなWEBデザイナーが丹誠込めて特別にデザインをするサイトを除いて、何百ページものサイトを人力でコーディングをする運用方法はさすがに減るはずだ。システムが出来ることはCMS等のシステムに任せて、クリエイターはよりクリエイティブな仕事を、WEB担当者は戦略を考えるべきだ。

前述のサービス化はもちろん、WEBに求められる役割はますます重要になってきている。今後は基幹システムや会計システム、SFAにCRM、商品マスターやイントラ、中小から大企業までSIerがつくってきたシステムの多くがWEBに引っ越しをしようとしている。

完全なコーディング、ActionScript、JavaScript、I.A.、プロジェクトマネジメント、デザイン、色、ユーザビリティ・・何かが出来ないと「お前、そんな事も知らないのか」と揶揄しつつ、お互いが必死に全てを学んできたのがこれまでのWEB業界だった。でももうひとりで全てを身につけ、全てをつくる時代ではなくなっている。どんなに幅広いスキルを身につけても、大規模サイトや高度なECサイトをひとりで作る事はできない。

技術的に高いスキルを持っていても、プロジェクトを成功に導く事、顧客とユーザーを満足させる事、目標を達成するサイトをつくる事は難しい。個人も制作会社も、その他のWEB関連企業も自分の得意な分野や専門性を身につけ、得意な領域を持ち寄りますます大きく難しくなっているプロジェクトに立ち向かっていく必要がある。WEB制作も一軒家をつくっていた時代から、ビル建築のようなプロジェクトが増えている。大規模な建設プロジェクトではプロジェクトの成功のために、それぞれ得意な領域を担う「ジョイントベンチャー」を立ち上げる。WEBの構築プロジェクトも似たような形が増えてくるだろう。

「場所」の重要性

2010年、GPSを活用したサービスがもっと一般化するだろう。iPhoneをはじめとしたスマートフォンの浸透とともにWEBとともに移動する人々が増えている。記録される位置情報と、その場で得たい情報を繋げるサービスが次々と出てくるはずだ。セカイカメラのようなAR(仮想現実)アプリケーションも目新しさから有用なサービスへ戦いは移りつつある。例えば、夜7時の渋谷、ご飯を食べている友人をアドレス帳の中からiPhoneの地図上で見つけることが出来るサービスがあったらどうだろう?困ることもあるかもしれないけど、面白いことも多いはずだ。

ソーシャルとCRM

ソーシャルという言葉に代表されるウェブ上の関係性は毎年「大切だ」「変化した」と言われている。2009年の主役はTwitterとiPhoneだった。当面、このWEBでつくられる相互の関係性が強まることはあっても、弱まることは無いと考えた方がよさそうだ。そしてこれからは企業も顧客だけではなくさまざまなステークホルダーとの関係性を意識して構築しなければならなくなっている。最近では「ソーシャルCRM」という言葉がぼちぼち聞かれるようになってきている。

CRMといえば、大企業による失敗プロジェクトの代名詞のようなもの。SalesForceを始めとしたWEBベースのCRMの登場によって、ハードルは随分低くなったけど、それでも定着し成果を上げている企業はまだまだ少数だろう。理由はさまざまあげられるし、それを指摘する場でもないので割愛するけど、ひとつあげられるのが企業内での力関係がありそうだ。3年前まで、経営企画やセールスの責任者はWEBに見向きもしなかった。情報システム部門にとっても企業のWEBはセキュリティを危うくする厄介者以上のものでもなかった。

2008年から2009年にかけて状況は大きく変わってきた。

マーケティングの責任者や経営企画層、そして営業や販売の責任者まで企業のWEBサイトに注目し始め、社内のシステムを刷新するならWEBベースにシフトしている。必然的に企業全体のWEBのリテラシーは高くなり、企業の(ITだけではなく広範な)システムを決定する意思決定者もWEBとWEBマーケティングに詳しい担当者が増えてきている。

一方でどんなに営業を強化しても、簡単にモノは売れなくなってきている。WEBによる情報発信はもちろん、お客様の声を聞く双方向性が重要になっていることを企業は敏感に察知してきているし、メディアの特集も増えている。

企業のウェブサイトを通じて、企業はステークホルダーに自分の情報と活動を提供している。でも今年から一方通行の情報発信だけではなく、顧客と対話する情報発信が求められるだろう。すでにWEBを通じた対話をホンダを始めとしたWEBに先進的な企業は初めている。そしてその関係性は、CRMを通じた情報と融合してくるはずだ(するべきだ、かな?)。

今年は情報発信の基盤であるCMS、顧客情報の基盤であるCRM、この2つを組み合わせたプロジェクトが徐々に増えてくるように思える。

新しい才能と起業

2009年、WEB関連企業から優秀な人材がスピンアウトし独立をした人がたくさんいる(僕の知り合いでも少なくとも5人の素晴らしい人材が独立をしている)。Twitterを見ていても顕著だ。皆が嫌いな不況だけれども、こういう所は良いところだ。

「不況時に会社をつくってどうするんだ?」と思う人も多いかもしれない。けれども起業して1年程度は実はあまり仕事なんか出来ないしもともと無い
(1年目からたくさんある人はすごいよね)。自分だけのサービスをつくるために「仕込む」1年な事がほとんどだ。

新しいサービス、新しい表現、新しいコミュニケーション、新しいマーケティング手法。2010年、去年や一昨年に独立をした人達がいよいよ本当に面白いサービスや価値をつくってくれると思うし、そう信じている。

そして10年目を迎えるロフトワークと僕も彼らに負けずに新しい事にチャレンジしつつ、一緒にいろんな新しいコミュニケーションをつくっていきたい。

「そろそろ新しい事もなくなるかな?」WEBに関わっていると、そう思う事もあるけど、結局のところまだまだ進化しているのがWEBだしWEB業界だ。僕自身、テレビ広告や新聞広告で何か購買行動をした事を思い出す事は難しいけれども、WEBを通じて新しいサービスやモノを購入することは毎年増える一方だ。そして何より知識や情報を得ることの多くがPCやスマートフォンを通したWEBにすっかりシフトしてしまっている。

「疲弊している」「閉塞感がある」そんな声も聞こえることもあるWEB業界だけれども、僕はちっともそう思わない。走っていれば疲れるし、周りが見えなくなることもある。でもすごい勢いで風景は変わっているし、以前よりももっと素晴らしい才能と能力を持つ人々がこの業界に流入してきている。

今年は他にもネット選挙の解禁や、Appleのタプレットといった話題もある。その度に新しいチャレンジや面白いプロジェクトが生まれるし「おーすごい」と思うプロデュースや「そんなものつくったんだ」っていうプロジェクトもあると思う。

今年もやっぱりWEB業界は面白い、っていう事かな。

執筆者

諏訪光洋

代表取締役社長諏訪 光洋

1971年米国サンディエゴ生まれ。
慶応大学総合政策学部(SFC)を卒業後、JapanTimes社が設立したFMラジオ局「InterFM」(FMインターウェーブ株式会社)立ち上げに参画。クリエイティブ業務を経た後、同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、NYでデザイナーとして活動。2000年にロフトワークを起業。

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