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mitsu_suwa

代表取締役社長
諏訪 光洋

Googleが発揮した集団的知性 本当に強い企業の作り方とは?

先日、緊急時の情報発信体制を考えるセミナーで講演をしました。そこでお話ししたのは、COSO ERM、BCP、クライシスコミュニケーションという、国際的なリスク対応のフレームワークと想定を超えた力を発揮した企業について。世界的な潮流をおさらいしながら「不測の事態に強い企業」の未来形を考えてみました。

20万人の避難者を3日間で

“When the fires broke out, I told my communications team that we would need to supply the public with frequent, timely, detailed and accurate information - around the clock - and they got that done in tremendous
fashion.”
「危機が発生した時に行った事、それは正確かつ詳細な情報を、タイムリーかつ頻繁に、1日24時間体制で提供することだった。あとはチームが素晴らしい仕事をしただけだ。」

2008年、「Silver Anvil Awards *」で米国サンディエゴ市市長(当時)のジェリー・サンダース市長が述べたコメントだ。受賞の前年である2007年、サンディエゴでは、郊外で発生した大規模な山火事が東京ドーム1700万個分にあたる800平方キロを焼き払った。そのため、当局は3日間で20万人の市民を避難させる超緊急事態を迎えたが、これを同市は見事にやりとげ、しかも鍵を握っていたのは情報発信の体制だった。(東日本大震災の避難者数が8万6000人であることを考えるとこの20万人の避難というものがどれだけの事か理解できるはずだ)

チームが取り組んだのは、[透明性] [迅速性] [頻繁性]の3つを極めて素早く危機管理計画へと落とし込み、それを実行すること。20万人の大移動という巨大プロジェクトを混乱を抑えて進めた広報活動……、表彰に値する、素晴らしい仕事だったことは間違いない。

*同賞は、PRSAという全米最大・32,000人以上が所属する広報専門家組織のアワードで、毎年優れた広報活動が表彰されている。

世界規模の災害"Catastrophe"に備える「ERM」

ただ当たり前のものとして見逃してしまいそうなのが、この危機対応を支えた「ERM」というフレームワーク。これはEnterprise Risk Management Frameworkという考え方で、米国では2000年以降急激に整ってきた危機管理のフレームワークだ。

カタストロフィーという言葉がある。これはトポロジーの専門学者であるルネ・トム氏が「カタストロフィー理論」を発表し、今はフィクションにもしばしば使われる言葉だけど「ディザスター(DISASTER)」を超える、超規模な災害、特に発生予測が不可能な災害を指す。カタストロフィーロス(Catastrophe Losses)でGoogleの画像検索をしてみて欲しい。深刻な災害の画像の他にいくつかグラフを見つけることができるはずだ。

カタストロフィーロスの超規模な災害で発生する損失をグラフにしたもの。興味深いのが2000年以降急激に増えていること。これは超規模災害が急に増えてきている……わけではなく、企業規模や投資がグローバルに展開した結果、損失もグローバルに超規模になっている結果だ。

WEBライクな「COSO ERM」への進化

ERMはそんな環境の中で着実に詰み上がってきたフレームワーク。その集大成とも言え、事実上の世界のスタンダードとも言えるものが「COSO ERM」。

これは1992年に米国のトレッドウェイ委員会組織委員会でつくられた内部統制のフレームワークである「COSO(the Committee of Sponsoring Organization)」にERMの要素を拡張したもの。COSO自体は1980年代に増えた米国企業の粉飾決算や不正に対し(ちょうどこの頃企業のグローバル化がスタートしたのと密接な関係があるのだけど)、主に会計の視点から内部統制やコンプライアンスを規定したものだ。

COSO ERM自体は調べてみると資料は沢山あり、勉強してみるには苦労はしないだろう。このCOSOからCOSO ERMへの進化を追っていくと、いくつか興味深い点が見えてくる。それは財務からマネジメント全般に、そしてリスクの「許容度」という考え方が生まれていること、内部指向から外部指向になっていること、戦略的で未来志向なことなどだ。ちょっと「Web」っぽいのだ。

3.11で日本企業の8割がBCPを策定

このCOSO ERMはフレームワークとしては緻密に出来ているけど、さらに具体的な「プラン」に落とし込むのがBCPやBCMと呼ばれるもの。BCPは「Business Continuity Plan」の略で日本語に訳すと「事業継続計画」だ。

BCPは組織単位や各々の役割によって企業の中でも複数存在しているはずだ。職場環境や生産拠点として総務部がビルや工場を対象につくるBCPもあれば、情報システム部門はデータやシステムを守るためのBCPを策定する。

3.11では日本企業の8割がBCPを策定しており70%以上の企業が「かなり機能した」「ほぼ予定通り機能した」と答えている。(ハミングヘッズの調査)

「クライシスコミュニケーション」

ただし、COSO ERMやBCPは主に企業の内側、企業自身の話だ。その他にも、企業は社会と対話をしなければ存続ができない。危機の際のコミュニケーションはどうあるべきか。もちろんここにも専門家やルールがあり、「クライシスコミュニケーション」と呼ばれている。

クライシスコミュニケーションは、災害危機だけではなく、企業の「失態」による危機にもも想定している。例えば、大規模な情報流出や不正、社員によるトラブル、商品やサービスの欠陥によって企業に発生するなどによる、ネガティブなイメージや被害を最小限に食い止めるために行う、ステークホルダーへの適切なコミュニケーション活動がそれだ。

世界にはこの分野の専門家やPR企業がいくつか存在しているが、スペシャリスト達が最重要であると指摘するのが「透明性」だ。「コミュニケーション」が主体になるので、近年はインターネットを中心に変化する環境に対しても新しい手法や対応が提案されている。

企業としてのGoogleが発揮した「集団的知性」

と、いうわけで、企業はERM/BCPとクライシスコミュニケーションにきちんと対策をすれば企業にとって「危機的な状況」は相当準備ができていることになる。

しかし、その先が無いだろうか?

今回、311の際にGoogleが提供をした「Google Person Finder」。その立ち上がった経緯などがこちらのITmediaに記事があるが、他の企業でもこういう形で「有機的に」素晴らしい対応をした企業がいくつか存在した。まるで組織自体がひとつの知性をもっているかのように。

「集団的知性」という言葉がある。これは100年以上前にウィリアム ウィーラー(William Wheeler)という昆虫学者が提唱した概念でアリなどの群をそれ自体ひとつの生物として考えるところからスタートしている。以降、この集団的知性はガイア理論や組織論、社会学、プログラミングまで幅広くさまざまな分野に連綿と発展してきている。

緊急時にこそ普通を超える成果が必要

Googleの震災時のふるまいはまさにこの「集団的知性」が高かった結果生み出された成果なのではないだろうか。そして企業がこの「知性」を高めるにはどうすればよいのだろうか。自立したプロフェッショナル、能力、裁量、組織のありよう……ひとつ鍵を握るのは「インナーコミュニケーション」ではないか。

いつも同じ人、同じ組織、同じプロセスでしかコミュニケーションをとっていない組織は危機的な状況では機動的に動けない。ERMやBCP、あるいはクライシスコミュニケーションで「事業継続」に対して必要十分な準備は出来るかもしれない。

だが、危機時には、平常時の成果を上回るパフォーマンスを求められることがある。もちろん、それは「いつものチーム」ではできないことだ。手がるプロジェクトはいつものプロジェクトではないはずだし、非常時だからいつものメンバーが欠けているかもしれない。メンバーを探すにはひとりひとりが声をかけ、各自が出来る能力を発揮できるプロジェクトチームをつくり、プロジェクトをスタートさせ、マネジメントする必要がある。

雑談が危機に強い組織を育てる?

先日「社内Twitter勉強会」に出席をした。これはロフトワークがかなり以前からYammerという社内Twitterを採用し、運用している事から繋がったものなのだが、出席していた企業は30社近く。どの企業の担当者も企業内のコミュニケーションを社内Twitterで活性化できないか、びっくりするくらい真剣にそして前向きに考えていた(レポート記事)。

本当に危機的な状況にこの社内Twitterがどこまで活かされるかはわからない。でもロフトワークでも社内Twitterが無ければ、ほとんど発生しない関係や関心が日々「雑談」という形で生まれている。

この一見雑談でしかない、インナーコミュニケーションの価値が、いま、見直されているのではないか。

集団的知性を育む「ありがとう」

マザーテレサは言う。
「愛情という言葉の反意語は憎悪ではない。無関心である」

企業だって同じではないだろうか。各々の仕事やミッションに興味を持ち、能力をおぼろげながら知ることが「土壇場」で力を生み出すのではないだろうか。お互いが無関心では興味や共感は生まれない。「おつかれ」「ありがとう」「すごいね」っていう言葉が仕事を一緒にするいつものメンバーを超えたところで交わされてこそ、企業の「集団的知性」は高まるのではないだろうか。

そしてそこでWeb、そしてその担当者はまさに中心的な役割を果たせるのではないだろうか。なんてことを『NextWeb 不測の事態にも対応する企業の情報発信体制を考える』セミナーで話してきました。Webってやっぱり面白いよね。

執筆者

mitsu_suwa

代表取締役社長諏訪 光洋

1971年米国サンディエゴ生まれ。
慶応大学総合政策学部(SFC)を卒業後、JapanTimes社が設立したFMラジオ局「InterFM」(FMインターウェーブ株式会社)立ち上げに参画。クリエイティブ業務を経た後、同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、NYでデザイナーとして活動。2000年にロフトワークを起業。

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