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Column コラム

ICF 2017

mariko_sugita

Layout unit. エディター
杉田 真理子

細胞から宇宙まで。都市づくりの未来を議論した、 Innovative City Forum参加レポート

2050年、世界の人口の約9割が都市部に集中すると言われています。つまり、社会課題の多くは都市部に集積し、その解決のためのイノベーションに取り組むことは都市部における大きな課題といえるでしょう。 都市部で生活する私たちは、刻々と変化する都市を傍観するのではなく、自らの意思で関わり、デザインする必要があるのではないか──?

そんな課題意識のもと、世界のオピニオンリーダーが集い都市の未来を議論する国際会議、「Innovative City Forum(*1)(以後ICF)」。第5回目となる今年は、「科学・技術」「アート・デザイン」そして「経済・産業」の視点をもった全71名をゲストに迎えて開催されました。アート&サイエンスセッションを中心に、今年のICFをハイライトでお届けします。

(*1)Innovative City Forum

未来のライフスタイルにおける「拡張」と「共生」

メディアアート、バイオテクノロジー、宇宙、シェアリングエコノミー……一言でまとめるにはあまりに多岐に渡ったセッションが組まれた3日間。1日目のアート&サイエンスセッションは、「拡張(Augmentation)」と「共生(Symbiosis)」の2軸がテーマでした。

人間の機能や感性の「拡張(Augumentation)」

冒頭、MITメディアラボ所長の伊藤穰一(以後Joi)さんは「拡張」を2つの観点にわけてセッションをスタート。ひとつは「IA(Intelligence Argumentation)」、コンピューターは人間の拡張であるという視点。もうひとつは「AI(Artificial Intelligence)」、人工知能は人間の代わりになるというものです。IAについてはヴィクトリア・モデスタさん(*2)、AIについては暦本純一さん(*3)から、ご自身の活動を事例にプレゼンテーションがありました。

(*2)Victoria Modesta Official Website
(*3)東京大学大学院情報学環 暦本研究室

◯障害を乗り越えたデザイン|ヴィクトリア・モデスタ
20歳の時に自らの意思で膝下を切断した義足のバイオニック・ポップアーティスト、ヴィクトリアさんは、Light leg(光る脚)、Bionic leg(木の脚)、Spike leg(足先が尖った脚)の3種の「脚」を持つといいます。シンガーソングライターやポップアーティストとして活動し、「障害を乗り越えたデザインとは何だろう?」と考えるなかで、「身体拡張」というコンセプトは非常に強力であるというアイデアに行き着いたそうです。単なる機能改善ではなく、機能を超えた領域で見える景色を探りたい。そんな思いで、今は「感覚を遠隔で表現する」という新たな身体拡張のプロジェクトに挑んでいるとのこと。

プレゼンテーション後、Joiさんと元MITメディアラボ研究者でXiborg代表の遠藤謙さん(*4)とのディスカッションでは、「テクノロジーによって足が速いことの価値が下がるのではないか」という遠藤さんの指摘に、会場の端々でうなずく人が。’12ロンドン五輪で活躍したオスカー・ピストリウス選手の活躍で、障害がいきなり“(健常者の)超越”につながったことから、障害の意味が変わるかもしれない。極端な話、足が悪くないのに足を切断し義足にすることで、パワフルさを手に入れようとする人が出てくる可能性もある、という議論は、固定概念を覆す非常に興味深いものでした。

(*4)Xiborg LAB

◯人間が、“Other(他者、人間以外の何か)”とつながるとどうなるか?|暦本純一
UI研究の第一人者である暦本さんが提起したのは、「人間は何とどう接続すると、どのように進化するか?」というアイデア。VR技術の研究を「IoA(Internet of Ability)」というキーワードで紹介し、インターネットが個人の“能力”に接続し、個人を越境して「他者の視点に入り込む」あるいは「客観的な視点で自分を見る(※幽体離脱のようなイメージ)」ことで得られる情報の有用性を語りました。
興味深かったのは、アスリートの高いパフォーマンスは、自分自身をメタな視点で分化させ、プレー中に「自分と他者の目線」を同時にもつことで生まれているという分析。「人と機械」という二項対立で考えがちな人工知能の文脈において、「人間と何を掛け合わせるのか」という観点は大事なポイントと学んだセッションでした。


都市や地球、そして宇宙の視点からみた「共生(Symboisis)」

デザインされた「共生(Symboisis)」とは何か──? この分科会で見えてきたのは、生物、建築・都市、環境、データ、宇宙、といったあらゆる機能が作用し合う、“共生空間”としての都市のあり方でした。

◯「協生農法(Synecoculture)」の可能性|舩橋真俊
ソニーコンピュータサイエンス研究所の舩橋真俊さん(*5)は、都市と農地の二極化に警鐘を唱え、両者が補完し合う仕組みをつくれないか、と指摘します。そこで必要になってくるのが、生物多様性に基づく「協生農法」の構築。協生農法とは、例えば森で微生物と植物、動物がお互いに作用し合い「命で命を贖う」ようなエコシステムのこと。多様で、複雑で、競合しながらも共生しつづけてきた動植物の生態系は、都市づくりの観点にも活かせられるかもしれません。
森美術館館長・南條史生さんの、「(船橋さんの次にプレゼンをする)アリエル・エクブローの語る宇宙は人類のはるか上空に広がるもの、船橋さんの語る農業は“足元に広がる無限大の宇宙”」という表現を受け、共生農法×都市の未来が楽しみになりました。

(*5)ソニーCSL リサーチャー 舩橋真俊

◯宇宙の観点でみる都市|アリエル・エクブロー
続くディスカッションセッションで登場したのは、MITメディアラボ スペース・エクスプロレーション・イニシアティブ創設者・主席のアリエル・エクブローさん(*6)
印象的だったのは、協生農法の話を受けて展開された、宇宙建築についてのトーク。マッシュルームを原料にした素材から自然に育まれていくという宇宙建築(Space Architecture)のメタボリズム性は、今後の地球における建築の考え方にも大きな影響を及ぼす予感がしました。

(*6)MIT Media Lab Space Exploration


◯有機的な建築|ネリ・オックスマン
続いて、MITメディアラボ メディアアート・サイエンス学部准教授のネリ・オックスマンさん(*7)が登場。建築家、デザイナーのネリさんは、「環境と素材」をデザインと不可分な領域と捉え、ガラスの素材や構造などを研究し自らガラスの3Dプリンターを開発する発明家の顔ももっています。
今回のプレゼンテーションは、素材の構造を様々に考察する「素材生態学(Material Ecology)」を応用させた建築構造や都市のあり方そのものについて。もし、汗をかき、自力で体温調整をする有機的な建築があったら? 素材の性質や作用をモデリングでき、その技術を都市の発展に生かすことが出来たら……?壮大に展開される議論は自分の想像力を遥かに超え、圧倒の連続でした。

(*7)Neri Oxman Official Website

おわりに:都市のイノベーションをオープンに議論するプラットフォームの重要性

「かつて都市は、目に見える要素ばかりで構成されていましたが、いまでは目に見えないソーシャルメディアやバイオリズムが、都市のダイナミズムを醸成しています。(*8)Joiさんは、従来建築家を中心に考えられてきた都市づくりに、現在は合成生物学なども含めた複合的な知見が必要となっていることを主張しました。

(*8)伊藤穰一とアピナン・ポーサヤーナンが語る、「未来都市」2つのヴィジョン(WIRED、2014.11.26)

様々なバックグラウンドと専門領域を持つ登壇者によるマルチトピックな議論を目前に、筆者は今回いい意味で“混乱”しました。
細胞、宇宙、メディアアート、シェアリングエコノミー、働き方。未来の都市とイノベーションを考えるとき、どのテーマも重要な関連性を持ち、一つひとつの要素を切り出しても都市のダイナミクスは語りきれません。Joiさんの言葉のように、都市は「ダイナミズムをそのまま抱え込む有機体」ならば、その圧倒的な複雑さの前に混乱しつつも、自らの意思でより良い都市のあり方をデザインしていきたい。そんな課題意識と決意を新たにした3日間でした。来年のICFでは何が語られるのか、自分はどんな意見をもち議論に参加できるのか。2018年までに、自分もいっそう大局的な視野を広げたいと思います。

執筆者

mariko_sugita

Layout unit. エディター杉田 真理子

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