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Loftwork COOOP

テキスト:くいしん(灯台もと暮らし)

はじめまして!普段は「灯台もと暮らし」というウェブメディアで編集・執筆をしているくいしんです。2月に、どこでも地元メディア「ジモコロ」で以下の記事を書きました。

年商2億!孫に5万円! 巻き寿司で町を変えた「カンピューターおばちゃん」

この記事、実はロフトワークが企画運営する、兵庫県の山里・多可町の地域PRムービー共創プロジェクト「TAKA Winter Video Camp」の滞在中に行った取材です。そんなつながりから今回『Business Approach Compass』というワークショップ・シリーズを紹介する記事を書くことになりました。

アーティスト長谷川愛のアイデアの源泉 「あたりまえを疑うこと」は、ビジネスにどう役立つのか?

突然ですが、あなたはあたりまえを疑えますか?

「人は必ずしも人の子どもを産む必要があるのか?」
「世界的な人口過多と食糧問題がある中で、そもそもこれ以上人間は必要なのか?」
「破壊されゆく地球環境に産み落とされた子どもは幸せなのか?」
「同性間で子どもを産むことはできないのか?」
「常識や社会通念で必要と思われていることは本当に正しいか?」

これは連続講座vol.1のゲストであるバイオアーティストの長谷川愛さんの作品に込められた想いです。本記事では、2017年3月22日イベント当日、ゲストの長谷川愛さん・ロフトワーク浦野さん・僕の所属するWaseiのインターン小山内、4人の座談会の様子をお送りします。

Business Approach Compass - 価値創造の視座を育てる連続講座

『Business Approach Compass』は、アーティスト・社会学者・演劇家など、一見ビジネスとは遠いところにいる彼らの作品づくりや研究のモチベーション、アイデア創発の源泉を紐解きながら、ビジネスで新しい価値を生み出すためのヒントを探るワークショップ・シリーズ。主な講座の対象者は、新規事業、研究開発、製品開発の担当者など、課題解決や新たな価値創出を日々のビジネスでミッションにしている方々です。

でもなんだか、けっこう難しそう......。自分や普段の仕事とどんな関係あるのかな?そんな率直な疑問を、まずは講座を企画したロフトワークの浦野さんにうかがうことにしました。

『Business Approach Compass』がはじまったきっかけ

ロフトワーク 浦野 奈美さん

── 浦野さんがこの講座を企画しようと思ったのはどういうきっかけがあったんですか?

浦野 新規事業やR&Dの方々と話していると「今までになかった新しいものを一緒に作ってほしい」とか「こういう新しい技術があるので何かできないか」という要望が多いんですね。ただそれってどうしても「ビジネス的な視点」に集約してしまっているような気がしていて。たとえば、ピクサーやAppleなど、これまでになかった革新的なものを作っている人たちって、世の中のニーズやユーザーの課題を集めて、それにぴったりフィットするものを作り上げるのではなくて、自分の中の純粋な疑問や希望だったり、個人的な気持ちからスタートしているって思うんです。

一方で、ニーズを完璧に満たしたり、課題をキレイに解決できないといけないという思い込みに近いものや、会社や組織の制約、自分の中にある既存のルールなど、色々なあたりまえを疑わずにいることが多くて、とてももったいないことだと思っています。そういったものに囚われてしまっているせいで、選択肢の幅が最初から狭まってしまっていることが多いように感じています。

ロフトワークも、ロフトワークにご相談してくださる方々も、認知しているユーザーニーズや課題に対してのソリューション型のものづくりは慣れているし、得意です。しかし、スペキュラティブ・デザインのようにテクノロジーとして今はまだあり得ないものだけど、思考を飛ばした先から可能性を探って、文化や社会にインパクトを与えられる革新的な価値やサービスを作り出す発想をするところまでは、今一歩届いていないように感じています。

── なるほど。だからこそ「vol.1 『壊す』 - 盲点を探る発想アプローチ」のゲストはスペキュラティブ・デザイン*を実践している長谷川愛さんなんですね。

*スペキュラティブ・デザイン
物事の可能性を“思索”[speculate]するための手段。想像力を駆使して、「厄介な問題」に対する新しい見方を切り開く。従来とは違うあり方について話し合ったり検討したりする場を生み出し、人々が自由自在に想像を巡らせられるよう刺激すること (出典:『スペキュラティブ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。』(2015、ビー・エヌ・エヌ新社))

浦野 そうですね。愛さんであれば、日本のビジネスの世界によくある既成概念を、アート的な視点やスペキュラティブ・デザインの視点で「壊す」ことをしてもらえるんじゃないかって思って。今回のワークショップ・シリーズでは異なる分野のスペシャリストをお呼びして、その方たちの考え方を参加者や自分たちで、咀嚼していこうと考えています。

常識に囚われない視点を、来てくださる方や自分の中にもっとたくさん取り入れられたら、柔軟に新しいことにチャレンジしていけるんじゃないのかな?と思うんですね。自分の中に新しい視点と進むべき道の方向感覚を持ってほしくて、『Business Approach Compass』という講座を企画しました。

── 今回の企画のターゲットは新規事業やR&Dの方々が主ですけど、ビジネスでの視点を養ったり、視座を高めるという目的でいうと、ビジネスに関わるすべての人に楽しんでもらえるし、考えたほうがいいことですね。イベントが楽しみです!

新しい価値はどこから生まれるのか

長谷川愛さん(写真中央)
日本の現代美術家/デザイナー。静岡県生まれ。東京とボストンを中心に、世界中でアートとデザインの活動を行う。 IAMAS、RCAを経て、2014年よりマサチューセッツ工科大学メディアラボのデザイン・フィクション・グループにて研究員を務める。 「Expand the Future(未来を拡張する)」というコンセプトのもと、アートやデザインを用いて日常の当たり前に問題提起を行う。その手法はスペキュラティブ・デザイン(Specurative Design)と呼ばれ、未来の起こりうる姿を提示することで、社会に重要な問いを投げかける。

長谷川さんはスペキュラティブ・デザインという手法を使って「私はイルカを産みたい」「(不)可能な子供」といった世の中にセンセーショナルな議論を巻き起こす作品を数々生み出しているバイオアーティスト。

── 今回の講座の趣旨は「常識やあたりまえに囚われず既成概念を壊し、新しい視座を育てる」ですよね。今あるプロダクトやサービスでそのような発想から生まれたものってあるんでしょうか?

長谷川 たとえばAirbnbですね。あのサービスはもともとアメリカの美大生たちの「見ず知らずの旅行者をたまたま自分の家に泊めたら楽しかった」という個人の原体験から生まれたものなんです。「見ず知らずの人間を自分の家に泊める」という、一見非常識な考えからあんな素晴らしいサービスが生まれました。

小山内 見ず知らずの他人の家に……。今でこそAirbnbはサービスとして上手くいっているから受け入れられますけど、日本の社会で生まれ育ってAirbnbがない時代だったら、なかなか受け入れるのは難しいかもしれませんね。

長谷川 「見ず知らずの他人を家に入れるなんてとんでもない!」と決めつけてしまうと、Airbnbはサービスとして成り立たないし、始まってもいなかったわけじゃないですか。そうじゃなくて、世の中には旅行好きの人がいて、そうやって他人の家に泊まること・泊めることも有りだと思っている人がいる。

他者の価値観を受け入れたら、選択肢も増えるわけですよね。新しいビジネスが生まれるためにはそういう全然違う価値観で考えることが大切だと思います。「常識的じゃない」と排除するのではなくて、「あり得ることかもしれない」と想像できることがまず大事ですよね。

浦野 バイオアーティストである愛さんを今回お呼びしたのも、まさに愛さんの作品が常識だと思っていた価値観をゆさぶるようなまったく新しいものだったからです。愛さんの作品作りのインスピレーションやプロセスから学ぶことが多そうだなと思って。

『I Wanna Deliver a Dolphin…(私はイルカを産みたい)』

長谷川 たとえば私の作品のひとつである『I Wanna Deliver a Dolphin…(私はイルカを産みたい)』は、スペキュラティブ・デザインという手法を用いたアートです。原点はAirbnbと同じで、私個人の原体験と、心の中の違和感からできた、「あたりまえ」を疑う作品なんです。



── どんな違和感ですか?

長谷川 女に生まれたら、子どもを産んで育てたいと思うことが、いわゆる世の中の"あたりまえ"じゃないですか?でも私はそこに違和感を感じたんです。人口過多による食料危機や自然破壊が問われている今の時代に「そもそもこれ以上人口を増やしていいのか?」という疑問が浮かびました。人間を増やしてしまうことは、必ずしも地球全体にとっていいことではないのかもしれない。そう考えた時に大きなジレンマを感じ、「子どもを生むことが必ず幸せに繋がるのか?」と、違和感を覚えてしまったんです。

浦野 子どもを産むことは素晴らしいことのはずなのに、社会の問題と相容れないってことですね。

長谷川 自分にある選択肢として、子供をつくる、つくらない、養子をとる、海外に行けば代理母にはなれる、この4つしか選択肢がないことに、私は全然納得できませんでした。同時に「こんなに破壊されていく環境に、強制的に産み落とされた子どもは幸せなのか?」と考えました。

そこで一旦テクノロジーとしての実現性は横に置いて、「どうしたら私は幸せになれるのか?」と自分自身の心に向き合い、空想を描きました。私は食べることもスキューバダイビングも、そして海の動物も好きだから、「絶滅危惧種のイルカの代理母になれたら私は嬉しいんじゃないか?」と考えたんです。

常識を疑うことは未来の可能性をひらくこと

Wasei くいしんと小山内(写真中央)

そうして長谷川さんご自身が、専門家へのリサーチや実験的な検証を繰り返してできた作品が『I Wanna Deliver a Dolphin…(私はイルカを産みたい)』という作品。この作品に限らず、スペキュラティブ・デザインの考え方を使った長谷川さんの作品が注目される理由は、一見ありえないと思うことを未来の起こりうる可能性としてリアリティを持って表現しているからです。

スペキュラティブ・デザインには明確な定義はありませんが、常識を疑うことが第一歩。「そもそも、これは本当にそうなのか?」と課題解決ではなく、問題提起をする姿勢を持つことが大前提にあります。そして起こりうる未来の姿を示して、社会に対して「こんな未来がもしあったらどう思いますか?」と問いかけて世の中に議論を生み出す、この一連の表現がスペキュラティブ・デザインなのではないかと長谷川さんは説きます。

長谷川 そういう意味では『I Wanna Deliver a Dolphin…(私はイルカを産みたい)』も今はアートだけど、実は未来的にはサービスになり得る可能性があると思っていて。マイノリティかもしれないけど、私のように人間を産むかどうかを迷っているときに「イルカだったら産みたい」という人が世界中を見たらいるかもしれないし、そういう人を集めたらマーケットができるんじゃないかと思っています。

浦野 ターゲットが多くて重要度も高い社会課題はすでに様々な人や企業が取り組んでいます。あたりまえを壊して新しい価値をつくり出すためには、ターゲットが少なく重要度が高い分野において、挑戦をするべきじゃないかって思うんです。

『スペキュラティブ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。』のとある1ページ

── 浦野さんが今回の連続講座を企画した理由でもあるのですが「こうじゃないといけない」「こうあるべきだ」と考えてしまって、企業文化や個人の中にある常識の枠から出て発想することをできない人はたくさんいると思います。そういった人たちは、まず何をしてみたらいいでしょうか?

長谷川 やっぱりまずは、自分の心に目を向けてみることじゃないですか?「そもそもこれ、なんでダメなんだっけ?」「なんでこうじゃないといけないんだっけ?」と、表層の感情で処理しないで、合理的に考えることだと思います。たとえば日本の文化でよくある「上司が帰らないから帰れない」とか「有給をとらない」とか、合理的じゃないことはわかっているけどやってしまっていることってたくさんあると思います。そういう身近なことを考えるところからでいいと思うんです。

小山内 そう考えると、私たちが常識だと思っていることって合理的じゃないことが多いのかもしれませんね。

浦野 たとえばどんなことですか?

小山内 私は正直、電車の中で化粧を直す人が「なんか嫌だな」と感じてしまいます! お手洗いのことを化粧室というくらいだから電車で化粧を直すのは「はしたないこと」と思ってます。でも、よくよく考えてみるとそれって合理的じゃないのかもしれないですね。自分の多様性のなさを今まさに実感しました(笑)。

長谷川 多様性のなさって、結局は「他人の許せなさ」なんですよね。我慢文化が美徳とされている部分が大きい日本では、「なんで嫌なのか?」と、自分の負の感情や嫌な気持ちを掘り下げる人が少ないと思います。現代は技術の進歩が速くて、民意で技術を使えるかどうかが左右されたりもします。代理母の例をひとつとっても、海外ならできるけど日本ならできないということがありますが、ここにあるのは技術ではなく私たちの「考え方」の話なんですよ。

ここで「ダメだからダメ」と決めつけてしまったら、あらゆる可能性を排除してしまうことになるんです。でもだからこそ私たちアーティストやデザイナーは、そういう民意を揉みほぐしていきたいという気持ちがある。

── 長谷川さんの作品のひとつ『(Im)possible Baby((不)可能な子供)』は、「同性間で子供ができるテクノロジーがあったらどうしますか?」と社会に問いかける作品です。この問いには倫理の壁が大きく立ちはだかっていると実感されたそうですが、NHK番組で特集を組まれ放映されていく中で、反対だった人たちが賛成してくれる様を見ることもできたと語っています。そうやって自分の中の常識がひっくり返ることがビジネスにとって、どんな可能性があるとお考えなのでしょう。

長谷川 スペキュラティブ・デザインの考え方の原点なのですが、常識をひっくり返して見ると盲点が見えてきたりするんですよ。それで意外と楽しく暮らせたり、未来に現実味を持たせることもできる。だからスペキュラティブ・デザインは、課題解決ではなく問題提起なんですよね。SFっぽい話に聞こえるかもしれないけど、「こういう未来もあり得るんじゃないか?」って思う人が多ければ多いほど、実現する話だとも思っていて。

浦野 たしかに「新しい何かを作りたい」と考えるときに、そもそもこれって必要か? 今までの常識は本当か?と疑問を感じて問題提起することが、未来の新しい価値を生み出すのではないかと思います。

長谷川 今ある既成概念に囚われず、もう少しみんなで合意をしながら「よりよいってなんだろう?」と考えていきたいですよね。それをせずにプロダクトやサービスを作っても、結局お金持ちにしかいいものじゃないと思っていて。消費者は五体満足で異性愛者で、もっとお金を使いたいと思っていて……そうやって考える人が多いけれど、本当はそうじゃない。むしろそういう理想の消費者はいますが、他にも様々な消費者がいるわけです。だからこそ、新しいこと、モノを作りたい人はいろんな視点を自分の中に入れておくことが大切だと思います。

浦野 愛さんが所属されていたMIT Media Labの所長である伊藤穰一さんも、これからはひとりの人間に「アーティスト」「サイエンティスト」「デザイナー」「エンジニア」の4つの視点が備わっていることが大切だと仰っていますよね。4つの視点を持った人々が協力し合うことはだんだん活発になってきたけれど、ひとりで4つの視点を備え持つということはまだまだされていないですよね。

長谷川 別の人たちの考え方を知る、という意味では身近なところからだと、FacebookやTwitterを自分の好きな意見で固めたりしないことだと思います。自分の生きている世界の外にいる人たちと繋がるのは簡単なことではないので。そこは私自身も課題だなと思っているところですね。スペキュラティブ・デザインはまだ見えていない問題を掘り起こし、未来の起こりうることを考えることです。

ありえない、起こりえないと思っていたインパクトの強い事象が起きてしまう『ブラック・スワン』が流行りましたよね。ああいった感覚で、どこまであり得るのか? どこにブラック・スワンがいるのか、と思考をデザインしていくことが、これから新しい価値を生み出していくために必要となってくるんじゃないでしょうか。

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